ドキュメンタリー映画監督がAVメーカーハマジムに転職!? 昆虫キッズ、スカート、どついたるねんを撮り続ける映像作家・岩淵弘樹インタビュー


世の中に何が起きても、他の人からはあいつらバカって思われても、あいつらとくだらないことをやり続けたい

――次に、現在も密接に関わっているどついたるねんの話にいきたいと思います。先日の美学校のトーク(8/16「外道ノスゝメ」夏休み特別講座「熱血ゴリラ 美学校へ行く」どついたるねん 公開授業 & LIVE)で、3.11当日にどついたるねん自身が撮った映像に衝撃を受けて撮り始めたって言っていましたが…。

岩淵:もともとは、どついたるねんの相川(ワトソン)が、昆虫キッズのことが好きで、どついたるねんの無善寺でのイベントに昆虫キッズが呼ばれたんですよ。そのライヴの打ち上げを撮ってて、高橋がこいつらのCD面白いぜってケラケラ笑いながら教えてきたんですけど、俺はどついたるねんみたいなおふざけバンドはもういいですって言ってたんですよ。でね、その時期、高橋がUSTREAMにはまってたんですよ。そんな時に高橋とどつハウスに行って、高橋がUSTREAMやってて、俺は違う映像の編集をしてたんだけど、高橋が帰っちゃって俺とどつで取り残されて。「お前らどうすんの?カメラあるしなんか撮る?」って言ったら、やりたいってどつが言って、そこで「MY BEST FRIENDS」を撮るんですよ。最初に撮ったのはそれですね。

岩淵:そのあとに震災があって、あのあとすぐ反原発デモとかにあいつらが出たりするんですよ。主に震災後からいろいろ濃密に撮り始めるんですけど、撮っていくときに、youtubeに、震災当日のどついたるねんの動画があるよって教えられて、見たらすごくって。信じられるなって思ったのは、結局こいつら、世の中に何が起きようと自分たちが面白いことをやるっていうスタンスがすごくはっきりしてるじゃないですか。自分も映像を作る上で励みになったっていうか、世の中に何が起きても、他の人からはあいつらバカって思われても、あいつらとくだらないことをやり続けたいって気持ちでやってますね。

――震災後からいろいろ撮り始めたのはなぜですか?

岩淵:震災が起きて、街から物も人も減っていって、カメラを回す気持ちにはならなかったんです。でもその当時知り合った平賀さち枝さんが「撮るなら今だよ」って言ってくれたのと、今まで撮影していた高橋やどつが電気が使えないライヴハウスでもライヴをはじめて、これまで通りにライヴを撮る、っていうことが自然に出来たんです。で、撮れた記録は残るじゃないですか。時間が経てば貴重な記録として残るわけじゃないですか。大森靖子さんを撮った『サマーセール』は2011年の夏で、余震も続いていて、そんな背景でも歌しかない大森さんが映ってたらいいなと思って作りました。

映画×音楽プロジェクト、MOOSIC LABに出品されたこの作品は、大森靖子の評価を非常に高める作品となり、大森靖子は同プロジェクトのベストミュージシャン賞を受賞している。

――震災のあとに、毎日動画を始めるんですか?

岩淵:毎日動画を始めたのは2012年。震災の年の2011年夏に「サマーセール」、冬に「サンタクロースをつかまえて」を撮ったあとに、高円寺のどつハウスの近所に引っ越してきて、どついたるねんの毎日動画が始まるんですね。

――そもそもなんで毎日動画をやろうと思ったんですか?

岩淵:なんでだろ。思いつきですよ。毎日やったら面白いんじゃない?って。ただ3日目でもう集まれなかったんですよ。だから、メンバーじゃない人を集めて、お前らふざけんなよみたいな映像を作ったら、それを見て真面目にやってくれるようになりました。
 当時は、どついたるんねんのメンバー1人が辞めて、2012年4月か5月くらいに木本と田口っていう新メンバーが入ってから毎日動画始めるんですよ。そういう時期でバンドとしても不安定で、ライヴも全然うまくいかないし、みたいな。
あのとき毎日動画自体はおふざけメインでやってたんですけど、ライヴも全部毎日動画のコピーみたいにやりだして。俺はそれは違うだろって思って、3ヶ月くらいしたところで俺のほうからやめようって言いました。そこからどついたるねんは音楽性をコロコロ変えながら、でもバンドって部分は絶対にぶれなかったから、今は音楽的にもまとまって充実していると思います。

――これは私に限らずだと思うんですが、毎日動画の中で一番印象に残っているのはやっぱり「山ちゃんの下北沢インディーファンクラブ2013」※ですね。

※ 下北沢インディーファンクラブ2013でのどついたるねんの舞台裏ドキュメンタリー。山ちゃんのライヴでのミスにブチ切れるワトソン。涙の山ちゃん。動画をアップ後、インディーファンクラブの共演者やファンを中心に大反響する。残念ながら、岩淵氏のアカウント停止事件によって現在は、『どついたるねんBEST』のDVDでのみ見ることができる。

岩淵:あの暴力事件を撮った直後に、今回の映像どうするって聞いたら、「シリアスになっちゃうんで公開はやめましょう」って相川は言ったんだけど、でもすぐ出すならいいと思うよって俺は言ったんです。インディーファンクラブの裏側として、あのイベントに参加した全員が共有出来る思い出になればポジティブに伝わると思って。
打ち上げに行かず、急いで帰って編集して翌日に公開したら、今までで一番反響がありました。特にバンドマンの人が何か感じるものがあったみたいで。バンドって関係性の繊細さみたいなものが映ってたんじゃないでしょうか。

――なるほど、そしてどつに関しては今に至る、と。

岩淵:今に至るけど、不思議ですよね。ハマジムの梁井さんがどつに興味を持ってくれて、なぜか俺もハマジムに入って、ハマジム最初の現場がどつの撮影っていうのは、よくわかんないよね。なんでこんなことになるんでしょうね。ただ、どつの面白さは、どつしか撮ってないはずなんだけど、あいつらがいろいろな場所に行くおかげで思いがけない…銀杏BOYZ峯田和伸さんや元プロレスラーの前田日明さんにも会えて、アメリカにも行って。どこまでも連れてってくれるような気にさせてくれるのが面白いですね。

――昆虫キッズやどついたるねん以外にもたくさんのアーティストを撮っていると思いますが、岩淵さんが関わるミュージシャンは、今まで出てきたバンド以外に、麓健一、大森靖子、前野健太、倉内太、三輪二郎、遊佐春奈、松倉如子さんなどと、シンガー・ソングライターが多いですよね。かなり個性的な方々が多いと思うんですけど、どういう人に惹かれますか。

岩淵:多いですよね。なんでかなあ。曲が好きなだけじゃなく、顔もいいし、魅力的じゃないですか。だから一緒に飲んだ時とかに今度何かやりましょうよって話になるんですよ。それをちゃんと覚えててくれてたり、おれも思い続けていたりして形になるって感じですけど。たまたまっていうか、全員知り合いじゃないですかその人達。大元は豊田道倫さんなんですよね。