日常のその先にひろがるDIYフェス– 静岡・フジサンロクフェス・イズヤングフェスの現場から


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阿佐ヶ谷Roji『little expo』の現場から

11月24日の三連休最後の月曜日。イベントの開演は19時だが、会場は17時から開場しており、薄闇の中では早くも暖かい光が阿佐ヶ谷Rojiからこぼれ落ちていた。筆者が早めに会場に足を運ぶと、既に複数人でゆるやかに談笑などをしており、ほっこりとした光景が広がっていた。早速バーカウンターの端で受付をしている鈴木竜一朗氏に挨拶すると、今回の写真展示をしている写真家の廣田氏もすぐ隣にいたため、その場で紹介していただいた。そして、その奥にはceroの髙城晶平氏の姿もあった。先述した通り、鈴木氏と廣田氏が専門学校の同級生であり、廣田氏と髙城氏が幼馴染である。同じ84年生まれの同級生みたいな3人が揃ってバーテンをしているのもほほえましい。

――今回どのようにしてこのイベントを開催することになったのですか?

鈴木:まず阿佐ヶ谷「Roji」はceroの髙城晶平くんのご両親が経営されているBARで、僕はプレオープンからお世話になっている場所です。そこで今回高梨くんたちが打ち上げをするみたいな話を幼馴染の中越くん(DJマシュマロ)から聞いて「せっかくだからイベントにしちゃおう」という流れになりました。

高梨:DJマシュマロさんが「Rojiでフジサンロクとイズヤングの打ち上げしよう」って誘ってくれて、「その場のノリでライヴとかもできるっぽいよ~」と言ってくれたので、それならお客さんも呼んでイベントにできたらいいですね。って僕から提案して、(鈴木)竜さんにお話したら「両フェスの写真の展示もしたらおもしろくない?」って言ってくれて、こうなりました。

この鈴木氏と高梨氏を繋いだ共通の友人、中越渉氏(DJマシュマロ)も、イベントのDJとして会場に駆けつけていた。この繋がりも、音楽やアートといった特定の分野ではなく、片方は幼馴染、もう片方は地元のラーメン店の常連、というどんな人たちでも持ち得る繋がりだ。

この日はフジサンロクフェスから文角 BUNKAKU と古川麦、イズヤングフェスからayU tokiOとヤング高梨(ソロ)が出演した。開演時間ともなると会場は観客と出演者・スタッフで満員状態。観客には出演者のバンドメンバーや、東京で活躍するミュージシャンの顔も見られ、もはや誰が観客で誰が出演者・スタッフなのかもわからない。会話が交錯するアットホームな雰囲気のまま、文角 BUNKAKUの演奏が始まった。

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トップバッターの文角 BUNKAKU は、パーカショニストのBUN Imaiと角銅真実によるユニット。最初にパチカを使ったテクニカルなパフォーマンスを披露するや否や、一気に会場が盛り上がる。また、コインをカップに入れる音や、コインが入ったカップを振って出る音を使ったパフォーマンスは、最前列で見ていた子供の目を釘付けにしていた。

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続く2番手のayU tokiO。普段のライヴやイズヤングフェスでは通常のバンドスタイルに管弦楽器を入れた8人編成だが、今回は会場に合わせて猪爪東風とMAX(ex. Wienners)の2人編成。今年発売された『恋する団地』は今年話題になった一枚だが、表題曲でもある「恋する団地」に登場する名歌詞《21世紀の世界はこんなに素敵さ》が阿佐ヶ谷Rojiという空間で鳴り響いたときには、Rojiでまた新たなミュージシャンたちの繋がりができる予感を感じることができてグッとくるものがあった。最後は『恋する団地』を気に入って楽譜にまで興したというヤングの高梨哲宏も加わって2人がボーカルをとる「米農家の娘だから」を披露。

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3番手はヤングの高梨哲宏。ソロを披露するのは6年ぶりというが、フジサンロクフェスへの最大の尊厳を尽くし、若干たじろぎながらも、等身大でできる精一杯の心を込めた高梨氏の歌う姿があった。また、こんな印象的なMCがあった。

「ちょっと前までは、将来とか未来のことを全然考えられなくて、今しかないって思ってた。けど最近になって、家族や友達と1年後のこととかを話したりして…俺、未来のことちゃんと考えられるじゃんって。」

乍東十四雄の頃の逼迫したような衝動に駆られて歌う姿はそこにはなかった。自身の変化をMCでおもむろに語ったあと、「つまり何が言いたいかって…来年のイズヤングフェスもよろしくお願いします!」と締めくくり、最後はバンドの代表曲のひとつでもある「やさしいパンクス」を披露した。

そして、満を持して登場したのが、トリを務める古川麦<表現(Hyogen)>である。「フジサンロクフェス代表の古川麦です」という挨拶に、待ってましたとばかりの暖かい掛け声が飛び交う。また、サポートドラムの田中佑司による、古川麦のMCの合間に挟んでくる冗談や、それに呼応するかのようにツッコミを入れるスタッフ陣との掛け合いが、場を盛り上げていた。しかし、演奏が始まるや否や、観客は奏でる音の中に取り込まれ一体化したような空間がそこに広がった。

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また、今回はカバー曲が2曲(Judee Sill「Jesus Was a Cross Maker」と伴瀬朝彦「マルカポネラ」)披露されたが、故郷と同時にどこか異国を思わせるような境地へと私たちを誘い、秋の終わりの贅沢すぎる夜がゆっくりと過ぎていった。最後は文角 BUNKAKU も混じえての楽しくもハイクオリティなセッションで、大盛り上がりのうちに会は終了した。

楽しい・感動するイベントは数多く存在する。しかし、この『little expo』を通じて感じられたのは、そこにいるほとんどの人が「ちょっとずつ」知り合いであり、その知り合いの輪がどこまでも広がる余地を持っていることだ。もちろん、中にはアーティストのファンとして参加した方も多く、今回のイベントも事前に予約でソールドアウトだった。ただし、そんな参加者と出演者の隔たりはほとんど感じられることはなく、そこには互いの会話が交錯する空間がひろがっていた。そして、その空間に音楽が鳴り響くことによって私たちは同じコンセプトを共有し、同じ方向を向くことができたのだ。フジサンロクフェス主催の鈴木氏は来年の展望についてこう語ってくれた。

鈴木: 今年のフジサンロクフェスはおそらく過去最高の爆音だったので、次回は完全生音のイベントにしようと考えています。それは周辺地域への気配りというか、僕がご近所さんだったらあれだけの爆音は二年に一回が許容範囲かな、と。だから来年は「フジサンロク・フォークジャンボリー・オリエンテーリング」(笑)。みんなで場所を移動しながら風景や音に出会えるようなイベントを構想中です。
最後に一言だけ。僕は、フジサンロクフェスがイズヤングフェス誕生のとっかかりになれたことが本当に嬉しいのです。「フェスって、作れるんだ」って、たくさんの人に知ってもらいたい。多種多様なフェスがどんどん発生していって、それらが緩やかにつながりを持つことができたら、ものすごく面白いことになるんじゃないかなぁ、と思っています。

繋がりを大事にする鈴木氏だからこそ、近所への気配りも忘れず、さらにはその周辺地域も巻き込んで輪を広げようとしている。日常の先に、私たちが同じ方向を向いて音楽を共有する、こんなに素敵なことは他にはない。そしてそれは、こんなにも人が密集しているのにも関わらずどこか分断されている現代の人々が、同じ方向を向くためのヒントになるのではないだろうか。そしてそうした輪こそが、本当に社会を変えていくパワーになっていくのではないだろうか。フジサンロクフェスもイズヤングフェスも、少しずつその輪を拡げている。

写真《little expo・フジサンロクフェス》/
廣田達也
写真《IZU YOUNG FES》/
アオキユウタ・ニイタニナギサ