【インタビュー】漫画好きが集まった究極のバンド部、トーベヤンソン・ニューヨーク


漫画雑誌は雑誌の「雑」の部分があるからかっこいい(森)

――森さんが発足した自主漫画レーベル『ジオラマブックス』はトーベヤンソン・ニューヨークの結成以後のことだそうですが、きっかけを教えてください。

西村:僕とオノマトペ大臣が「デスプルーフ」っていうZINEを作る活動を何年かしてたんですけど、森くんと知り合えたから森くんにデザインしてもらおうってなって。そのとき金子くんに「漫画描いてみたら?」って声をかけてカット描いてもらったりして、ぱうひろさんとか西尾雄太とかも描いてくれた。メンバーがもともと2人だったZINEに寄稿者がいっぱい集まったから、「豪華だからデス貴族や!」ってなったんです。ただその「デス貴族」、森くんがやった装丁がめっちゃ金かかってとんでもない赤字になって、僕がわきで自分の同人誌を売って、赤字を埋めたっていう……。

(一同笑)

森:浮かれちゃってインキ7版くらい使ったからね。ほんと悪いことしたよね(笑)。

画像-デス貴族表紙

デス貴族(本人提供)

西村:そのへんからジオラマも始まったんですよ。

森:仕事ではずっと商業もののデザインをやっているんですけど、そのへんから「自分で作るのってなんて自由で面白いんだー!」って自主出版の面白さを知って、やりはじめたのがジオラマブックス。いつも同じようなこと言うけど、できるひとはたくさんいるけど、やるぞってひとはそんなにいないので、そのやるぞ役に僕がなりました。

――ちなみに、自主漫画レーベルって他にもあるんですか?

mochilon:同人誌だとけっこうありますよ。

森:でも僕らのところみたいに、ちゃんとバーコードつけて全国流通で、っていうところになるとだいぶ減ってくるんじゃないかな。

――寄稿者は、基本的には繋がりのある人に声をかけていったんですか?

西村:真造圭伍(※)くんは、僕のブログにコメントくれたことがあって、森くんと「うわっ真造圭伍だ!」ってなって、コンタクトとりました。

※真造圭伍 …漫画家。2016年現在、月刊!スピリッツにて『トーキョーエイリアンブラザーズ』が連載中。代表作のひとつ『森山中教習所』は実写映画化、2016年夏頃公開予定。

森:メールとかも送ったりしたけど、やっぱり人づてが多いですね。

金子:サヌキナオヤ(※)さんは憶えてますよ。オッドジョブのサイトでジオラマを紹介してくれていたのを森さんが見て、コミティアで会って、知り合ったのがきっかけですよ。

※サヌキナオヤ …イラストレーター・漫画家。シャムキャッツ『MODELS』『AFTER HOURS』のアートワークやSPACE SHOWER TVでのstation IDの制作を手がける。オッドジョブとは、サヌキの働くアニメーション・デザイン制作会社。

――なぜ漫画レーベルが、ライブイベントをしようと思ったのでしょうか?

森:そもそも僕は、漫画雑誌は雑誌の「雑」の部分があるからかっこいい、みたいな思想があって、雑な部分っていうのをなにか一箇所に向けてやったらかっこよくなるんじゃないかって思って。じゃあ音楽だって思ったから、音楽の人に漫画を描いてもらったり、曲を提供してもらったりとか、文章を書いてもらったりとか、そういうことをジオラマ/ユースカではやろうとしました。その雑の結晶こそがジオラマミュージックフェア。だけど、僕はイベント運営のこととか全然わからないから、澤部くんに助けてもらって、ジオラマブックスと澤部くんの共同主催になりました。

西村:森ソニックを開催するにあたって、澤部くんに相談した、みたいな。

森:一人じゃ絶対できないからね。

澤部:裏テーマとしては、トーベヤンソンがライブをやる場、CDを売る場、グッズを売る場。

金子:あくまでべつものですね(笑)。

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突撃リポート!ジオラマミュージックフェアを見に来た理由は?

11月23日、渋谷WWWで2回目となるジオラマミュージックフェアが行われた。出演者は主催のジオラマブックスで過去にコラボレーションを果たしたミュージシャンたちや、過去に個人的にデザインを手がけたことのあるミュージシャンが名を連ねている。11月の連休最終日ということもあり全国各地で注目のイベントが行われる中、ここ渋谷WWWにも多くの音楽ファン・漫画ファンが駆けつけた。

画像-ジオラマミュージックフェア トーベヤンソン・ニューヨーク

トップバッターはトーベヤンソン・ニューヨーク。途中、「漫画ー!!」との雄叫びも。

当初はここでイベントレポートをお送りする予定だったが、前日のインタビューを通してある疑問が浮かぶ。

トーベヤンソン・ニューヨークとは一体なんなのか。
トーベヤンソン・ニューヨークのファンってどんな人たちなのだろうか。

そんな疑問を解決すべく、ジオラマミュージックフェア当日インタビューを敢行。とは言っても、どの観客がトーベヤンソン・ニューヨークのファンなのかわからない。そこで、どうしてこのイベントに来たのか、そして誰を目当てに来たのか、という2つの質問をしてみた。質問は、主にライヴの転換時間などに会場ロビーや出店場所付近にいた方男女25人ずつに伺った。結果が以下のとおりである。

質問1. あなたがジオラマミュージックフェアに来たきっかけを、以下の中から一番近いと思うものを選択してください。

1. 出演アーティスト目当てで 25票
2. ジオラマブックス・漫画家目当てで 19票
3. イベントそのものが目当てで 6票

予想通りではあるが、一番多かったのは出演アーティスト目当てで25票と半数を占めた。ただし、実際は1と2で迷って「どちらかといえばこっち」と1を選ぶ方が多く、筆者の所感ではイベントにかなり好意的な印象を持って参加しているような所感を受けた。

次に多かったのはイベントそのもの、と答えるものだ。ただし、この回答の人が、出演アーティスト目当てを選んだ人と大きく違ったのは、迷って回答を選択する人が少なかった点だ。「ジオラマももとから読んでいて、音楽も好きで…」「前回も参加して楽しかったから」といったような答えが返ってきており、その程度は個人差あれど「音楽も漫画もどちらも好き!」という人がこの回答を迷うことなく選んだのではないだろうか。

最後に、ジオラマブックス・漫画家目当てと答えた意見についてだが、当然ではあるがこちらも少なからずいることがわかった。ただしこちらも、音楽と漫画の両方が好きで、迷うことなく選択した方が多かった。
少ない事例ではあるが、普段は音楽を全然聴かないけれど、出演漫画家のファンであり、自分の作品を持ち込んで漫画家に読んでもらっていた男性もいた。これはかなり特殊なケースだが、これをきっかけに、ジオラマミュージックフェアの出演アーティストの音楽にも興味を持ってくれたら、イベント冥利につきよう。

ジオラマミュージックフェア マンガ家フリーマーケット。

マンガ家フリーマーケットでは多くの漫画家・イラストレーターが自分の作品を出品していた。写真はBRIDGE SHIP HOUSEの出展模様。

ジオラマミュージックフェア 出張書店

ヴィレッジ・ヴァンガードなどの出張書店も名を連ね、作品を購入することができた。


質問2.  目当てがあるとしたら、誰を目当てに見に来たか、ひとつ選択してください。

1. EMC 8票
2. スカート 5票
3. トーベヤンソン・ニューヨーク 4票
 ※ 上位3つ

ここで注意しておくが、4位以下も1票差や同列タイが多く、50人という少ないパイで判断しかねる部分がある。が、ここから見える特長をあげていきたい。

一番獲得票が多かったEMCであるが、この日は「EMCと思い出野郎」(EMCと思い出野郎Aチームの合体編成)として出演。EMCはちょうど同月にオリジナル・アルバムを発売、普段からライブ出演の少ない彼らのCD発売後初ライブということもあって、多くのファンが駆けつけたのもうなずける。ちなみに、EMCはEnjoy Music Club の略で、往年のポップ・ソングをフィーチャーしたものや、アーティストとコラボレーションした楽曲が多いことでも知られる。

画像-ジオラマミュージックフェア EMCと思い出野郎。

EMCと思い出野郎。寸劇も披露された。

そして、2位はトーベヤンソン・ニューヨークでドラムを叩く澤部氏のスカート、3位はトーベヤンソン・ニューヨークという結果になった。トーベヤンソン・ニューヨークを好きになった・知った理由としては「(もともとインディーズの音楽をよく聴いていて、)特にスカートのファンで、もしくはスカートがきっかけでトーベヤンソン・ニューヨークのことを知った」という意見を4人の方があげてくれた。

画像-ジオラマミュージックフェア スカート

スカートによるライブ演奏

また、上位の3位の並びだけを見ると「インディ・ポップな音楽を好んで聴く人たち」という印象になってしまうかもしれないが、「(イベントに来たのは)オカダダのファン。オカダダがきっかけでジオラマも読むようになった。」といったようなネットレーベル系の音楽ファンも見受けられた。

画像-ジオラマミュージックフェア オカダダによるDJプレイ

オカダダによるDJプレイ

以上の結果から、イベントに足を運ぶ直接的な理由は出演アーティストではあるが、固定のアーティストに限らず音楽や漫画が好きなファンが多く足を運んでいることがわかった。

ここで、話題をインタビューに戻したい。

西村:トーベヤンソン・ニューヨークって何だろうと考えてみると、前回2013年に出演してくれたエラー君とユザーン(※)の印象が一番近い。

※error403 & U-zhaan…人気イラストレーター兼漫画家のerror403と、タブラ奏者U-zhaanの異色ユニット。タブラとは、インド発祥の2打楽器。error403が鍵盤ハーモニカで、U-zhaanはタブラで楽曲を披露。

澤部:この人たちなにをやっているんだろう…みたいなね(笑)。

西村:見に来てくれている人たちは、「雑」の部分が好きな人たち。

澤部:心の広い人たちが見にきてくれてる。

まさに「雑の部分」というのが、音楽や漫画といったさまざまなカルチャーが濃密に絡み合って生まれた結果生まれたバンド=トーベヤンソン・ニューヨークであり、「心の広い人たち」というのが、トーベヤンソン・ニューヨークという文脈を理解できる音楽ファンたちなのであろう。

軽音楽部と言い切れるバンド、トーベヤンソン・ニューヨーク

――トーベヤンソン・ニューヨークとジオラマブックスは両者がとても密接に絡み合って、盛り上がっているように見えますが、バンドとジオラマブックスはどういった関係性なんでしょうか。

mochilon:ジオラマブックスとバンドの繋がりが、すごくあいまいでゆるくて、僕もよくわからない。サロン的な。僕の中でそれぞれがベン図で重なり合ってるんですよ。

西村:バンドのことは、今話していて思ったんだけど、あんまり実体がない(笑)。

森:ジオラマブックスとトーベヤンソン・ニューヨークの違いを敢えて言うなら、ジオラマブックスは何かをしようとしているけれど、トーベヤンソン・ニューヨークは一見すると何もしようとしていないように見える……!

mochilon:だって僕たち、軽音部だもんね。

玉木:軽音部のそれぞれがそれ以外のところでなんかやってるみたいな。

澤部:逆に言えば、ここまで意味がないバンドもそうそうないんじゃないか。だから、リスナーはすごく試されているんじゃないかな。

「漫画が好き」というシンパシーで繋がり、あくまでバンド活動が部活動と言い切るバンド、トーベヤンソン・ニューヨーク。まるで学生サークルのような雰囲気で、冗談を交えたり、音楽ネタで大爆笑したりしながら終始和やかなムードの中インタビューに応じてくれた。本業が別にあるぶん、マネタイズといったシビアな面とは正反対の方向で音楽活動ができるというのは、ある意味一番理想的な形で音楽と向き合って活動ができているのではないだろうか。

 そんな彼らのファースト・アルバム『Someone Like You』が昨年末に発売された。「あなたのような人」とも「(どこにでもいる)平凡な人」とも訳せるこのアルバムから、ぜひともあなたにピタッとくるお気に入りの一曲を見つけてみてはどうだろうか。ここまで読んでくれた音楽ファン・漫画ファンのあなたならきっと見つかるはず。

INFORMATION

トーベヤンソン・ニューヨーク『Someone Like You』

トーベヤンソン・ニューヨーク『Someone Like You』 ジャケット

2015年12月18日発売
品番:TJNY-002
収録曲:
1. Someone Like You #1
2. Party Time
3. 夜の窓
4. Table Talk
5. Young Song
6. クラシックすぎて
7. ほうせんか
8. スピーカーノイズ
9. Someone Like You #2
10. カセット
11. そばが食べたい