『おやすみホログラム』までのいくつものこと:プロデューサー小川晃一インタビュー


 結成からわずか1年数ヶ月。アイドル・ユニット、おやすみホログラムの活動は急速に広がった。Have a Nice Day! との共作や、おやすみホログラムバンドへの箱庭の室内楽やNature Danger Gangメンバーの参加。東京のアンダーグラウンドな音楽シーンと接続し、フロアをぐちゃぐちゃにかき乱すようなライブをする彼女たちが、その他方でアコースティックセットでのライブもスタートした。バンドにもアコースティックセットにもギターとして参加し、おやホロのサウンドを直に広げているのがプロデューサーの小川晃一である。
 9月16日に1stアルバム『おやすみホログラム』発売を控えた8月、小川に話を聞いた。彼のこれまでの音楽活動を振り返りながら、おやホロが持ついくつものチャンネルがどこから来てるのかを追う。

構成・文 / 小林ヨウ
取材 / 小林ヨウ・堀中敦志
写真 / 池田敬太

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おやすみホログラム
 2014年5月に始動したアイドル・ユニット。メンバーは望月かなみ、八月ちゃん。メンバーはそれぞれ多岐にわたるカルチャーに通じており、クラブやハードコアなライヴハウスへの出演などジャンルをまたいで精力的な活動を展開。さらに“おやすみホログラムバンド”として、ハシダカズマ(箱庭の室内楽)や小林樹音(元TAMTAM)らを迎えた編成でも活動。2015年4月、Have a Nice Day! とコラボしたシングル「エメラルド」をリリース。2015年9月、自らの名を冠した1stアルバムを発表。
http://oysm-hologram.com/



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小川晃一(おやすみホログラムプロデューサー)
 1982年生まれ。都内を中心に活動する音楽家。2011年2月にsmall finger recordsよりファースト・アルバム『Hello Darkness , My Old Friend』、2014年3月にiTunes Store、Amazon MP3、Bandcampにてセカンド・アルバム『We Dance Alone』を配信限定リリース。さまざまな形態でライブを行っており、ルーパーやピアニカを使用した多重録音のソロ、ドラマー・吉島智仁とのドラムデュオバンド「ooooooo」等では、ギターボーカル、ピアノ、etcを担当。2013年には「伊勢丹秋の彩り祭」のアニメーション音楽を担当した他、ウェブCM等の楽曲提供も行っている。2014年よりアイドルグループ「おやすみホログラム」のプロデュースを開始。2015年、自主レーベル「good night! records」を立ち上げ、おやすみホログラムを含んださまざまなリリースを計画中。
https://twitter.com/obake551

歌い方やバックが変わるだけでも全然違うから、それに耐えられる力がある曲を作りたい

――そもそも小川さんが音楽をはじめたのはいつ頃なんでしょうか。

小川:小学校の時にサザンオールスターズとビートルズの洗礼を受けて、作曲家になりたいって思うようになって、なんとなくアコースティック・ギターを買ったんです。でも、弾けずに挫折しました。他にキーボードも買ってみたけど、それも弾けなかった。中学生くらいで、ウータン・クランや2pac、パブリック・エネミー、ブッダ・ブランドといったヒップホップにハマって。そこでギターだせえって、ラッパーを志したけど、言いたいことがなくてこれも挫折しました。
 中学卒業から高校くらいにスーパーカーがきっかけでマイブラ、スーパーチャンク、ジザメリ、ダイナソーJr.などオルタナをよく聴くようになって、高1の時にエレキギターを買いました。ディストーションで歪ませれば、適当に弾いてもかっこよかったので、それから飽きずに続けてます。

――本格的に演奏するようになったのは高校生くらいからですか。

小川:MTRを買って宅録を始めました。コピーバンドがやりたくなくて。オリジナルやろうと思ったらバンド組む相手もいなかったので。あと、弾けないから作ったほうが早い、って感じです。自分の曲だったら弾ける、っていう。初めてバンドを組んだのは19歳の時で、高校とか中学校の同級生と。

――2005年から2008年まで活動していたバンド、Channaでは今おやホロバンドでもドラムを叩いている板垣ピロさんや、2014年に数回ライブをしたoooooooでも一緒に演奏する小野修さんがメンバーになっていますが、どういった繋がりがあったのでしょうか。

小川:ほぼほぼmixiのバンドメンバー募集で連絡貰った人たち。当時mixi全盛期で。Channa以降は現場で知り合った人みたいな感じ。吉嶋智仁さん(マイコトブランコ)もChannaを見てくれて付き合いが始ままりました。当時レーベルオーナーで、ライブハウスに他のバンドを見に来ていたのがきっかけです。

――吉嶋智仁さんは小川さんの1stアルバム『Hello darkness, My old friend』制作にも深く関わり、現在ではおやホロアコースティックセットのドラムも担当していますね。それ以降はソロでの活動となり、サウンドもアコースティックで音響的な方向へシフトしていきますが、どういった経緯だったんでしょうか。

小川:ソロを本格的にやるようになったのは、吉嶋くんとつるむようになってからですね。ドラムと2人だけでライブするのもいいよねとか、ロックじゃない枠組みで色々やっていこうとかって。

――デュオでのライブやおやホロアコースティックセットでもそうですが、ジャズ的なルーツを持った吉嶋さんが入るとサウンドが一気に変わりますよね。

小川:引き算みたいなドラミングで。全部並んでるみたいなロックのリズムの捉え方から抜けたかったっていうのもあって。おやホロのギターだけのアコースティック編成のときもそんな感じです。あと、バンドマンが嫌いだったっていうのもありますけどね。はは。今は一周まわっておやホロバンドのメンバーとやってるのは楽しいけど、当時は中二病だったんで。

――2011年2月に1stアルバム、2014年5月に2ndアルバム『We Dance Alone』がリリースされました。

小川:2ndは完全に一人で作りました。ジェイムス・ブレイクが出てきて、歌ものを単純にアコースティックに消化する、っていうのを自分なり解釈してやりたいなと。

――ソロのライブではアコギだけでなく、その場でサンプリングした音をループさせたりピアニカを使ったりしていますね。

小川:ボーカルもChannaくらいから上達してきたかなって色々遊び始めて。管楽器ができないので、微妙な調整ができるピアニカを使い始めたっていうのと、ダブが好きだったので、リー・ペリーとかマッド・プロフェッサーとかの影響もあります。

――小川さんの1stアルバム収録の「夜、走る人」は今月発売の『おやすみホログラム』にもおやホロバージョンが収録されます。YouTubeの小川さんのページを見ていると同じ曲を異なる編成の様々なバージョンで演奏しているのが印象的でした。

小川:一つの曲の様々な側面を見せたいと思っています。歌い方やバックが変わるだけでも全然違うから、それに耐えられる力がある曲を作りたいというか。具体的には、言葉にフックがあって、リズムとしっかりリンクしているということですね。そうすると、コードを抜いても成立すると思うんで。特定のコードがつかないと成立しない曲はダメだなというのがあって。

 作曲するときにコードを考えるのが面倒くさくて、割と同じコードで作って、そこからアレンジを加えたりすることが多いんです。2コードで作って、そこからコードを6個くらいに増やしたりとか、全然違うコードに組み替えたりもする。メロディーは変わらなくても印象はかなり変わります。それで、リズムが3拍子になったり4拍子になったりという取り方もできる。コードとかベースから作ってないですね。メロディーと詞からです。

――メロディーと詞はどちらかが先に出てくるのでしょうか。

小川:印象的な言葉とメロディーが同時にくっついて出てくるイメージです。メロディーはギターで作ってます。ピアノだと準備するのが手間なのでたまに。あとは、何か曲を聴いていて、そのコードに合わせて適当に歌ったりとか。

アイドルに対して一歩引くんじゃなくて、前に出ちゃうくらいのことをやったほうが面白いかなと。

――2014年5月にソロとして2ndアルバムをリリースしたのと同時期におやすみホログラムの活動もスタートします。最初に発表された「Drifter」は小川さんのこれまでの活動の中でも最も直球のオルタナ・サウンドですよね。

小川:おやホロではソロでは恥ずかしくてできないことを思いっきりやってます。

――当時興味があったアイドルはいたんですか。

小川:でんぱ組.incの「でんでんパッション」をラジオで聴いてすごいインパクトのある曲だなと。すぐにYouTubeでチェックして、BiSというグループもいるらしいと。そこから、iTunesで何枚か買ってみたりして。ライブは1回ずつくらい見たくらいですね。

――2nd CD-R『Machine Song』もオルタナ的な楽曲が中心ですね。

小川:ドラムだけ板垣が叩いてますけど、その他は全部僕が演奏しました。彼とはChanna以降は一緒にはやってなかったんですけど、ドルヲタだったんで誘ってみた感じです。いまや名物スタッフに。

――5月にHave a Nice Day! ×おやすみホログラム名義でリリースされた「エメラルド」は2015年の東京の音楽シーンを代表する曲の一つだと思います。コラボレーションの経緯について教えてください。

小川:元々八月ちゃんがHave a Nice Day! (以下、ハバナイ)を好きで、それを知ってか知らずかハバナイの浅見北斗さんがtwitterで八月ちゃんに曲書くよとリプライしたのが始まりです。 お願いします! って社交辞令っぽく返したら、そのあとオモチレコードの望月慎之輔さんから「やりませんか? 実はもう出来てるんです」という話があったような記憶があります。
 それまでに一回対バンしたのかな? もしかしたら、それがつまらなかったから、面白くしてやろうと思ってくれたのかもしれないですね。はは。だから、うちもアンセムを乗っ取ってやろうと思って「forever young」をカバーしたりとか。

――ハバナイとの共演によって、2人のパフォーマンスが変わったなと感じることはありますか。

小川:ハバナイってやっぱりバンドだし、あれだけ表現力のある浅見さんと同じステージに立つことで、そこに食われないようにしなきゃいけないし、バンドだといつもよりも自分の声が聞きづらいから、どうやってやるのかということをステージで勉強してきたのかなと思います。ステージングも含めて。

――おやホロバンドは2015年2月にお披露目されてから、かなりの本数のライブをこなしています。ギター:ハシダカズマさん(箱庭の室内楽)、ベース:小林樹音さん(元TAMTAM)、サックス:福山タクさん(Nature Danger Gang)、とそうそうたる顔ぶれですが、どういった繋がりがあったんでしょうか。

小川:おやホロのライブでVJをやってくれたり、「エメラルド」のMVを制作してもらっている、あたまがぐあんぐあんがハバナイやNDGなどオモチレコードのアーティストと仲が良かったので、福山くんを紹介してもらいました。ハシダさんと樹音くんは福山くんが連れてきてくれた感じです。元々友達だったみたいで。

――おやホロの1stアルバムで今のところ試聴できる音源は、バンド・サウンド的ではない印象ですが、どのようなアルバムなんでしょうか。

小川:5曲目までは意識してライブ定番のロックっぽい曲を並べました。特に、1曲目から4曲目まではバンド・サウンドで、5曲目の「note」でひと段落つく感じ。6曲目の「揺れた」が、僕がソロでやっていたことの延長線上にあるものを初めてやった感じで、7曲目から9曲目はクラブ・サウンドに近いものを。10曲目「誰かの庭」は実際に聴いてもらいたいんですけど、結構面白い感じになっています。


――アルバムリリースを記念した9月22日、新宿ロフトでのおやホロワンマンライブからアコースティックバンドに著名なジャズ・ベーシスト水谷裕章さん(phonolite、ONJT、坂田明トリオ等)が加わるのにはかなり驚きました。

小川:声がけしたいよねという話は以前から。1回吉嶋くんとギターのタカスギケイの3人編成でおやホロのライブをした後に、やっぱりベース欲しいなと、吉嶋くんから声をかけてもらって。

――今年に入って、ライムベリーのMIRIさんと八月ちゃんによるユニット、8mmもスタートしました。

小川:ライムベリーと何度か対バンすることがあって、MIRIちゃんすごいよねという話をしていて、八月ちゃんの歌も好きなんだよねという話があって、なんか試しにやってみます?というところからですね。アーティスト的なところを出したらどうかなという話があって。こっちはマイペースな感じで。初めて他の作曲家の、ハシダカズマさんと一緒にやっていて、作詞もハハノシキュウを入れているので。

――ヒップホップも小川さんにとって今も重要な要素なのかなと。

小川:全然ロックじゃないんですよ。ヒップホップが一番根本という感じで。音楽に対する考え方もヒップホップが中心。サンプリング・ミュージックだったり、ビーフとかディスとか、ああいうヒップホップの文化的な側面が面白いなと。言いたいことがないんで、ヒップホップできなかったというのはあって、オルタナティブだったら言いたいことがなくてもいいやと。

――リズムにばちっと乗っかる言葉をはめていく。それでかっこいい曲にしていくというやり方はヒップホップ的でもありますよね。

小川:そうですね。メッセージを排除する。でも、誰でもいろんな受け取り方ができる言葉を選んで、意味はあるんですけど、逆に意味がない。決まった意味をなくしているという作り方をしていますね。直接的な表現がほとんどないと思います。エモい気持ちの時に聴くと、すごくエモく聴こえちゃう。解説しようと思うと僕なりの解説はできるんですけど、たぶん人それぞれ受け取り方は違うだろうなと。

――小川さんがやってきたことや背景にあるものが今おやホロを媒介にしてアウトプットできる状態にあるんですね。

小川:アイドルに対して一歩引くんじゃなくて、前に出ちゃうくらいのことをやったほうが面白いかなと。バックバンドなんてやりたくないんで。アコースティックとか難しいことをやるので、あの子たちが置き去りにされるんだったら、置き去りにされる形を使って何かやるくらいのイメージで、そこに合わせることはあまり考えてないですね。

INFORMATION

おやすみホログラム『おやすみホログラム』

oysmhrgrm2015年9月16日(水)発売
収録曲:
01. Plan
02. Before
03. Drifter
04. Machine song
05. note
06. 揺れた
07. 夜、走る人
08. forever young
09. Tab song
10. 誰かの庭

おやすみホログラム~ワンマンライブ~

2015年9月22日(火)東京都 新宿LOFT
料金:前売 2500円 / 当日 3000円(ドリンク代別)
開場:19:00 / 開演:19:30