台湾から渋谷WWWへ。古川麦『far/close』ツアー


 表現(Hyogen)やceroサポートなどで活躍する古川麦の、台湾ツアーが行われたのは去年の12月半ばのこと。先に台湾に入り、すでにいくつかライブも終えている演奏陣の後を追う様に、アルバム『far/close』でジャケットデザインをつとめたデザイナーの川村格夫くんや、同じくジャケ写を撮った竜ちゃんこと鈴木竜一朗、「Green Turquoise」MVを撮影した浅ちゃん、カメラマンの廣田達也くんを始めとする撮影班も台湾へと向かった。台北駅につくと、浅ちゃんはおもむろにコンビニに向かい、慣れた手つきで八角の匂いのするゆで卵を鍋からすくって買い、とても自然にそれを食べた。台北から高速鉄道に乗って台中の会場に着いた時には、すでにその日のライブが始まっていて、その日はたまたま、麦くんたちの前に日本から来たバンドが演奏していたのだけど、川村くんはそれを知らずに「こうやって現地の音楽を聞けるのが良いよね!」と笑顔で言ったし、その場にいたメンバーの中の2人が38度以上の熱を出していた。そもそも竜ちゃんは寝坊して飛行機に乗り遅れ、まだ台湾に着いてもいなかった。今思い出しても雑然としたひとまとまりだったけれど、その全員が麦くんの為にはるばる台湾まで来たのだと考えると何だかおかしい。クリスマスの時期ということもあって、麦くんはその日のライブで「きよしこの夜」を英語、日本語、中国語で歌い、中国語で歌うときには観客にも歌わせた。そういえば、表現(Hyogen)がプラハで行ったライブでもチェコ民謡を観客と一緒に歌っていたし、相手と同じ言葉で向かい合うというのが、古川麦の基本的な姿勢なのかも知れないなんてもっともらしく思ったりした。最近はスヌーピーに似ていると言われるらしい。台湾ツアーを振り返りつつ、1stフルアルバム『far/close』のことや自身のこと、3月17日に行われるWWWでのライブへの意気込みまで聞いてみたい。

取材・文 / 岸田祐佳
写真 / 廣田達也、鈴木竜一朗

profile

古川麦…カルフォルニア生まれ。音楽家。中学の頃からクラシックギターを独学で弾き始め、その後ジョアン・ジルベルトの演奏スタイルに影響を受け、弾き語りを始める。高校時代にジャズヴィブラフォン・浜田均氏にその演奏を認められ、フルート・赤木りえ氏とのトリオQuiet Triangleにてデビュー。ボサノバなどブラジル音楽や様々な民族音楽・ジャズ・クラシック・ポップスなどの要素を渡り歩く独特な感性で紡がれる自作曲は老若男女問わず好評を博している。ソロ以外にも表現(Hyogen)、Doppelzimmer、cero、あだち麗三郎クワルテッットなど、多数のグループに参加。

live

古川麦 “far/close” release live「Coming of the Light」
2015年3月17日(火)会場:渋谷WWW 時間:19:00開場/20:00開演
料金:2,800円(前売/税込・ドリンク代別)/3,300円(当日/税込・ドリンク代別)

台湾ツアーのきっかけは、「異国で撮影した方がテンションあがる」みたいなノリ

――今回、台湾まで来たメンバーは、1stフルアルバム『far/close』に深く関わりがある人たちばかりですね。麦くんから彼らを紹介してもらっても良いですか?

古川:ビジュアル関係で言うと、まずはデザイナーの川村格夫くん。彼とは大学の同期で、2人でバンドを組んだりもしていたのですが、「いつかCDのデザインやらせてよ」と言ってくれていたので今回、満を持して一緒にやってもらいました。デザインだけでなく、アルバムのコンセプトや映像関係のディレクションなど、このアルバムの実質的プロデューサーといっていい存在で、川村くんなしにはここまでのものは作れませんでした。アルバムジャケットの印象的な写真は、表現(Hyogen)でもお世話になっている鈴木竜一朗くん。彼とは何だかんだ長い付き合いで一緒に旅する機会も多く、何の違和感もなく台湾で撮影という強行軍に付き合ってくれました。彼の写真の、何か消えいくものを湛えているような独特な質感からは大きな影響を受けています。それから、「Green Turquoise」のMVを監督してくれた浅井一仁くん。これまた昔からの付き合いなんですが、一緒に何かする機会がこれまでなかったのだけど、鈴木竜一朗くん主催のフジサンロクフェスでたまたま「やろう!」って盛り上がった結果、本当に美しく普遍性をもったMVが出来上がりました。

――それでは、台湾ツアーをすることになったそもそもの経緯って?

古川:2013年の暮れに、台湾でアルバムジャケットの撮影をしたんです。川村くんの案で「異国で撮影した方がテンションあがる」みたいなノリになって、じゃあ、自分の父親が住んでいる台湾なら行きやすいだろうと。その時は、ほぼ台中のみでライブも1度だけだったんですが、2014年の台湾ツアーはその時のお礼をするため、という目的が大きかったです。

――ツアー中、昨年末オープンしたばかりの「台北月見ル君想フ」でも演奏したとの事ですが、撮影班は誰も観られていないんですよね。如何でしたか?

古川:すごくいい場所だった! 「台北月見ル」は本当に偶然、ツアーの時にプレオープン中で、前々から「青山月見ル」の寺尾さんとは台湾で何か出来たらと話していて、急だったんですが無理やりライブをねじ込んでもらいました。台北はやっぱり日本の音楽を知っている人が多いというか、トークも日本語でOKな事が多かったので、雰囲気的には東京でやるのとそんなに変わらない気も。あ、でも、お客さんの中に消防士の人たちで仕事帰りに来てくれたという方々がいて、そういう感じは日本にあんまりないかな。元々撮影スタジオだったらしく、すごく広くて素敵なベースメントでした。これからどんどん流行るだろうけど、またライブしたいな。

――4都市をまたぐ台湾ツアーを振り返ってみて…

古川:日本との違いというよりもその土地ごとの違いがおもしろかったですね。台北は文句なしに都会だし、台中もだんだんと洗練されて色々とおしゃれなものが集まってきていました。台南は落ち着いた古き良きを残しつつ、新しい人たちがちゃんと入ってきていて一番バランスが取れている感じ、台北の少し南にある宜蘭(イーラン)は今回初めて訪れて、温泉街が近くてのどかだけど、どことなくヨーロッパ的な香りを感じました。後は、今回日本から同行してくれた方々が多くて、最終的に総勢12人の大パーティーだったのも合宿みたいでかなり面白かったですね。演奏陣、撮影班、あと純粋に旅行で来てくれた人たちも! コーディネートが若干大変だったけど、なかなか日本では集まれないメンツで過ごせたのも良かった。みんなで台中の夜市をそぞろ歩いたのが印象的です。

古川麦

――ライブに対する、現地の方の反応はどんなものでした?

古川:みんな、かなり熱心に聴いてくれましたね。手応えはありました。台南では「台南へようこそ!」って横断幕を作ってくれていて、じんわり喜んだり。宜蘭では、対バンの王彙筑(ワン・フイチュー)ちゃんとのデュエットも出来たし、台中は元々知り合いも多いけれど、ネットで知ってきたという方も多くて嬉しかった。

――台湾ツアーで改めて、ドラムの田中佑司さん、ベースの千葉広樹さんの存在感に目がいきました。

古川:この2人、体格と関係性は逆な気がするけど、自分の中ではブルースブラザーズのジェイクとエルウッドみたいな名コンビで本当頼りにしてます。あと、千葉くんが台湾を謳歌してくれていたのが嬉しかった(笑)。

――台湾で活動はこれからも広がっていきそう? 日本との違いも感じたりする?

古川:日本との違いという点では、さっき台北についてはちょっと話したけれど、台南や台中ではみんな素直で優しい気質を感じました。恥ずかしがらず一緒に歌ってくれるし、興味をそのまま伝えてくれる感じ。あと、自分の同世代でお店やカフェを持つ人が増えているのかなぁという印象を受けました。そういう人たちと繋がって、日本と台湾の間で点と点で繋がれる感じがとても良かったです。とにかく、行く先々で「また来てね」っていうメッセージを受け取ったし、フェスに誘っていただいたり、「月1でうちの店でやってよ!」って言ってもらったりと台湾での今後のライブの足場も組めたので、また行きますよ! 謝謝!