レコードとインディーシーンがクロスする場所 ココナッツディスク吉祥寺店・矢島和義インタビュー


彼女たちのtwitterのやり取りを眺めていると、「大学終わったら今日ココナッツ行こうよ」みたいにつぶやいてて、2008年とかでは考えられないことが起こっていて、大事にしていこうって思っていました。(矢島)

――ちなみに音楽とは違うんですが、レコード不況になる2005〜2010年っていうのは、日本だとmixiがすごく盛り上がっていた時期だったと思うんですが、そういうのは使っていましたか?

矢島:スカートの澤部くんとかはmixi繋がりですね。初めはお客さんで来てて、やっぱりあんな人だから、あんな風貌して、なんだこいつはって感じで。mixiは僕も澤部くんもやっててマイミクになったんですけど、澤部くんは毎日のように日記書いててそれが面白くてよく読んでました。昆虫キッズというバンドがおりまして…〜それがすごくいいんだって書いてて、僕も昆虫キッズを聴いてみようってなりました。その頃スカートはまだ聴いてなくて、昆虫キッズをまず好きになりました。

同時期に、twee grrrls club1)翻訳家・多屋澄礼さんを中心としたおんなの子オンリーのDJチーム。「Indie Pop Lesson」というディスクガイド本も出版している。っていう女の子のインディーポップ大好きな女の子たちのDJチームの存在を知って、やばい これは未来だと。あんなに若い女の子たちがアナログレコードを持ってDJやってるなんてすごい…この子たちについていけばいいんなじゃないかみたいな笑。彼女たちに憧れてレコード持つ子もいるだろうな、これがきっかけでレコードが復活したらいいなって思っていました。たぶん、そういうことをブログにも書いていると思います。彼女たちのイベントにも遊びに行きましたね。

VICE presents

VICE presents “Twee Grrrls Club vs Threepee Boys”イベントフライヤー

特に印象に残っているのが、2009年8月29日に渋谷la fabriqueで行われたtwee grrrls clubとthreepee boysのジョイントイベント。ココナッツ代々木店の店長横尾くんが在籍しているDJチームthreepe boysがtwee と一緒にイベントやるっていうことで行ったんですが本当に楽しかった。呑み過ぎました笑。(矢島)

――実際に今ココナッツディスクで売れているようなインディーズのバンドの新譜を置くようになった最初のきっかけは2010年12月のスカート『エス・オー・エス』だとお伺いしました。

矢島:昆虫キッズもコンタクトとりたいなって思ってたけど、ココナッツディスクってどっちつかずというか、その頃は自分の中でも誇れないところがあって言い出せませんでした。でも、2010年の秋頃に中川くん(現・池袋店店長)が池袋店にアルバイトに入ってきて、僕がたまたま昆虫キッズのホームページを見てたら澤部くんがサイトのトップページに載っている。それを見て中川くんが「あー!澤部なんで載ってるんだよ!」って言ったんですよ。え? って聞いたら、澤部くんと中川くんは中学高校同級生だった。(笑) それで盛り上がって、澤部くんも僕たちがいる日に遊びに来るようになって、今度アルバム(『エス・オー・エス』)出すんだよって話になって、うちの店でも取り扱おうってことになりました。そのあと、スカートの『ストーリー』(2011)を取り扱って何回も品切れになって、すごいって盛り上がったんです。 

スカート『エス・オー・エス』(2010)
当時のブログには矢島店長の音楽愛溢れる紹介記事が書かれている。


『ストーリー』の発売告知フライヤー

『ストーリー』の発売告知フライヤー

今ウチのお店でフライヤーを大切に扱うきっかけになったのもやっぱりスカート。スカートはフライヤーひとつとってもこだわって作っていたからこっちも大切に設置したいなと思うようになったんですよね。当時、澤部君はツイッターであのフライヤーが良いとか素敵とかツイートしていたりもしてて、そこにも影響を受けました。(矢島)

――その頃、Twitterも始めたとのことですが、矢島さんといえばココナッツディスク吉祥寺店のアカウントでよくエゴサーチしてはRTしてますよね。(笑) 

矢島:Twitterもデカかったんですよね。やたらとうちのことをTwitterで書いてくれる子がいたんですよ。昆虫キッズもスカートも、twee grrrls clubが好きな海外のインディー・ポップも全部好きっていう子たちがいて、ココナッツディスクでレコードを買うっていう。その子たちはtwee grrrls clubに憧れて褐色の恋人っていうDJチームになるんですけど、彼女たちが今のココナッツディスクのファンの最古参というか、ベースになってますね。彼女たちのtwitterのやり取りを眺めていると、「大学終わったら今日ココナッツ行こうよ」みたいにつぶやいてて、2008年とかでは考えられないことが起こっていて、大事にしていこうって思っていました。その子たちの趣味とかツイートとかを見てて、こういうのがいいんだとか僕も教えてもらったっていうのがあるし、その子達が好きだとか探しているレコードを取り揃えていきたいなって思ってました。安いインディーポップの中古盤の7インチだったら200円とか300円くらいだから、そういうものを一生懸命出してましたね。それだったら学生でも買えるし、よく買ってくれてました。

100favシール

褐色の恋人の100favシール

褐色に生きるのだ

褐色の恋人ZINE『褐色に生きるのだ』

――先行形態として、昆虫キッズやtwee grrrls clubという憧れの存在があって、スカートの音源がココナッツディスクで売れる、インディーズのバンドがアナログレコードを出すようになる、そして褐色の恋人たちのような若い女子がレコードを買う…未来だと思っていたことが現実化してきましたね。ブログを辿ると、2012年くらいから、スカートを筆頭に、シャムキャッツ、ミツメ、柴田聡子、ザ・なつやすみバンド、森は生きている、といった今のインディーズシーンの礎を作ってきたようなアーティストの名前が増えてきます。

矢島:それくらいからその界隈が東京インディーとか言われて、これとこれは同じ括りでって捉えられるのが増えたんじゃないですかね。きっと澤部くんは、円盤とかでもないしユニオンのインディーズコーナーでもないし、ココナッツが一番いい位置だと思ってたと思うんですよね。ある一つの隅っこにいたジャンルが急に真ん中になっちゃったみたいな感じじゃないかな。

――今回インタビューするにあたり、事前に思い入れのあるアーティストを何組か挙げていただきましたが、その中の一つでHomecomingsの名前を挙げていただきました。Homecomingsは京都のバンドですがどのように繋がっていったんでしょうか。

矢島:その当時リリースがなかったけど、褐色の恋人たちが京都のインディ・ポップシーンと繋がっていて仲良かったんですよ。彼らは、昆虫キッズみたいな彼らよりちょっと上の世代のバンドのファンにあたる世代で、僕はスカートや昆虫キッズとも繋がっているけれど、僕のお客さんとしてもっと近いのがその世代の子たち。その時インディ・ポップとかネオアコとかがみんな好きで、ブログでもその辺りを取り上げていると思う。それは単純に僕が好きだったっていうのもあるけど、そういう空気に引っ張られて取り上げていましたね。

2012年、褐色の恋人がゲストDJ出演した京都インディ・ビレッジ。当時、ライブハウス主体ではなくアーティストやDJが主体の音楽コミュニティによるイベントが関西には充実していた。 (提供:褐色の恋人) 

2012年、褐色の恋人がゲストDJ出演した京都インディ・ビレッジ。当時、ライブハウス主体ではなくアーティストやDJが主体の音楽コミュニティによるイベントが関西には充実していた。(提供:褐色の恋人)


indie pop prom special zine

indie pop prom special zine

indie pop prom special zine に寄稿したコメント

indie pop prom special zine に寄稿したコメント

そのあたりの空気感については、2014年に京都で開催されたイベント「INDIE POP PROM」会場で限定販売されたzineに寄稿した文章を読むとかなり雰囲気をつかむ事が出来ると思います。(矢島)

――今回、Homecomingsにもお話を伺ったんですが、”初めて東京でライブするときに矢島さんが僕らの前でDJをしてくれて、銀杏BOYZのシングル「光」のカップリング曲「ナイトライダー」をかけてて最高!ってなった” といったエピソードが印象的でした。銀杏BOYZは現在20代〜30代の多くのミュージシャンが通ってきたバンドですが、矢島さんも通っているというのが面白いなと。

矢島:僕と同じ世代の音楽好きな人だとアイドルとかにいっちゃう人が多くて…。2)ここ数年のアイドル界における渋谷系ブーム再熱によるものと思われる。やっぱり銀杏BOYZとかを聴いてしまって、同じ世代の人と感覚が少しズレて下の世代の感覚に寄って行ってしまったのかな。 

――2013年のフジロックは、彼らを見にわざわざルーキー・ア・ゴーゴーだけを見に行ったそうですね。 

矢島:象徴的な出来事で、あの年のルーキーが発表されて、1番手がHomecomings、2番手がミツメ、3番手が森は生きている、4番目に水中図鑑だったかな。このラインナップが完全にココナッツディスクじゃん!ってみんなTwitter上で盛り上がっていて、これはもう行かなきゃダメだなって思って。ルーキーのステージはタダで入れるじゃないですか。だから、本会場に入らないでルーキーだけ見に行きました。Twitterでファボられるために行ったっていうのもあって。(笑) もちろん彼らがあんな大きなステージでできるってことが嬉しかったっていうのもあるんですけど。 

――こうした盛り上がりを経て、最近では毎日のように音源が届くようですね。ここ最近のトピックがあれば教えてください。 

矢島:やっぱり今まで話したようなことがベースとしてあるんですが、取り組みが注目してもらえるようになったので、まだどこも取り上げていないようなアーティストやバンドで自分が良いと思ったものは意識的に取り上げるようにしています。最近だったら、evening cinemaと台風クラブ。evening cinemaはVo.の原田(夏樹)くん本人がお店にデモを持ってきたのがきっかけだったんですが、デビューCD発売日にインストアライブをやりましたし、台風クラブは京都で活躍しているバンドなんですけど、たぶん東京ではうちが一番最初にフィーチャーしていると思います。

――最近では日本のインディーズバンドがアナログを出すのは珍しくない光景になってきましたが、逆に現状に対する懸念点などあれば教えてください。

矢島:懸念とかは特にないんですけど、高くなってきちゃっているっていう。前だったら、7インチなら1,000円とか800円とかで出せていたのが、どんどん値段が高くなっちゃって、7インチ1,500円とかLP3,500円とかになっちゃってる。そこだけはええーって思っちゃうんですけど、それはプレス工場の値段とかもあるんでしょうし、大変だからあれでしょうけど。

――今後お店をこうしていきたいとかはありますか? 

矢島:今の感じは、そういう時代になってくれって思ってたことが実際になっているから、とても嬉しいですよね。あとはもうちょっと新譜を買う層の人も、中古盤とか洋楽とか違うやつも買うってなったらそれは最高ですね。

カバー写真・・・2016/6/7 ミツメ『A LONG DAY』発売記念インストアライブにて
前列に矢島店長(右から3番目)、池袋店中川店長(右から2番目)、ミツメメンバー
中列中央にスカート澤部、後列に吉祥寺店スタッフたち

STORE INFORMATION

ココナッツディスク吉祥寺店
open 12:00 / close 21:00 年中無休
〒180-0024 武蔵野市吉祥寺本町2-22-4
tel. 0422-23-1182
吉祥寺店ブログURL:http://coconutsdisk.com/kichijoji/
ココナッツディスクURL:http://coconutsdisk.com

References   [ + ]

1. 翻訳家・多屋澄礼さんを中心としたおんなの子オンリーのDJチーム。「Indie Pop Lesson」というディスクガイド本も出版している。
2. ここ数年のアイドル界における渋谷系ブーム再熱によるものと思われる。